2012年7月16日月曜日

なにもないねこ

みみがひとつしなかにねこがおりました。
そのかわりそのねこは、めがみっつありましたから、だれにもわらわれずにすみました。

めのひとつしかないねこも、おりました。
そのかわりそのねこには、しっぽがにほん、ついていました。

はなのあながひとつで、くちがふたつあるねこも、おりました。
おへそがなくて、あしがごほんあるねこも、おりました。

そしてそこに、なにもないねこも、おりました。



なにもないねこは、めもみみも、はなも、くちも、あたまも、どうたいも、あしも、しっぽも、なにもないうえに、そのかわりにもなにもなかったので、だれもそこに、そんなねこがいるなんて、しりませんでした。



そのなにもないねこをうんだおかあさんねこも、うんだとおもったところがなにもないので、うまなかったのだとおもってわすれてしまいました。

「うまなかったのかい?」
「だって、なにもないんですもの」

そういって、おかあさんねこは、おさかなのほねをさがしにいってしまったのです。



ですから、なにもないねこはいつも、ひとりぼっちでした。
ときどき、やねのうえから、あおいそらと、しろいくもをみあげて、ほっと、ためいきをつきます。


《ああ、せめてひげだけでも、あったらな》


「おい、いま、やねのうえのほうから、ためいきがきこえてこなかったかい」
しっぽがないかわりに、みみのみっつあるねこがいいました。

「なあに、はるかぜさ。はるかぜが、やねのうえから、おりてきたんだよ」
あしがさんぼんしかないかわりに、くちがふたつあもあるねこが、ふたつのくちをかわりばんこにうごかしながら、いいました。




しかし、しばらくたつと、どうもそのまちになにもないねこがいるらしいといううわさがひろまり、とうとうあるひ、とおいまちのはくぶつかんのかんちょうさんが、おおきなほちゅうあみをもって、やってきました。


「みなさん、こんにちは。このまちには、なにもないねこがいるときいて、やってきました」
「うわさですよ。だれもみたものはいないのです」
「よろしい、わたしがつかまえてあげます」


そういって、かんちょうさんは、なにもないねこのいそうなところをねらって、おおきなほちゅうあみを、ぶるるん、とふりました。もちろんそこにはなにもないねこもなにもいなかったので、いきおいあまったかんちょうさんが、どしんとしりもちをついただけでした。

はくぶつかんのかんちょうさんは、そのひ、まちじゅうでさんじゅうろっかいもほちゅうあみをふるい、かだんのはなをめちゃめちゃにしたり、きょうかいのがらすまどをこわしたり、うまのおしりをひっぱたいたりして、ひのくれるころ、ようやくあきらめてかえってゆきました。


《へたくそ》


なにもないねこは、かんちょうさんを、まちのはずれまでみおくって、そうつぶやきました。じつは、そのなにもないねこは、かんちょうさんにつかまえもらおうとおもって、なんどもちかづいたのですが、そのたびにかんちょうさんは、やりそこなってしまったのです。




ふたたび、なにもないねこは、まちのひとびとからわすれられ、ひとりぼっちになってしまいました。

よるのやねのうえで、みかづきさまをみながらなみだをこぼすと、なみだだけがひとつぶ、きせきのようにこぼれて、やねのうえにちいさなしみをつくります。
でも、それもまたすぐ、だれにもみられないうちにかわいて、きえてしまうのです。


《いったい、いつになったら、まちのひとたちは、わたしがいることにきづいてくれるのだろう。ほめてくれたり、かわいがったりしてくれなくてもいい、せめて、いることにきづいてくれればいいのになあ・・・》





そのうちに、なにもないねこも、としをとりました。
としをとったねこは、じぶんでおはかをつくらなくてはなりません。なにもないねこも、まちはずれのおかのうえに、ちいさなおはかをつくりました。

いよいよさいごのよる、なにもないねこは、いつものようにやねのうえにあがりました。
さいごにおつきさまをみて、それからしにたかったのです。

でも、そのよるはくもがひくくたれこめて、おつきさまはなかなかかおをだしません。
ねこはまちました。ながいあいだ、くるしいのをがまんしていっしょうけんめいまちました。よあけちかくなって、とうとうぽつぽつとあめまでふってきて、ようやくねこもあきらめました。







「ねえ、これはなにかしら」
よくあさ、めをさましたおんなのこが、かだんをゆびさして、おおごえをあげました。
「きっと、なにもないねこさ。なにもないねこが、ゆうべここでしんだんだよ」

まちのひとたちは、そこに、なにもないねこのためのちいさなおはかをつくってあげました。

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